正直、はじめは酒造りをやりたくはなかった。酒蔵の跡継ぎが杜氏になるまで。|滝澤酒造 滝澤英之杜氏

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2016/12/01

全国には約1500社の蔵元がありますが、そのなかでも東京で飲める日本酒はごく一部。そして、全国にはまだまだ皆さんの知らない日本酒がたくさんあります。

私たちは、「どんな人がどんな思いで醸した日本酒か知って飲む。すると日本酒はもっと美味しくなる。」と信じています。

そこで今回は、埼玉県・深谷市に蔵を構える「滝澤酒造」の専務取締役であり、杜氏も務める滝澤英之(たきざわ ひでゆき)さんに酒造りに従事するまでの経緯をおうかがいしました。

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酒蔵の長男として育った幼少期。正直、酒造りをやりたくはなかった。

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——まずは、滝澤さんの過去のお話からうかがっていきたいと思います。埼玉県の若手蔵元からも信頼が厚く、KURANDでも人気の銘柄「菊泉(きくいずみ)」を醸す滝澤さんですが、元々はなぜ酒造りに従事するようになったんでしょうか?その経緯を教えてください。

私は、跡継ぎとして、この造り酒屋である「滝澤酒造」に生まれたんですけれども、小さい頃はね、正直、酒造りをやりたくなかったんですよね。というのも、当然子どもってお酒飲めないし、お酒がどういうものかってよくわからないじゃないですか。

しかも、朝早く蔵人さんたちも働いていましたし、当時は岩手県からうちの蔵に出稼ぎで6人ぐらい来ていたんですよね。それで、朝早い時間から働いているっていうのはわかっていましたし、大変な仕事だろうなっていうのは当時から思っていましたね。

やはりお酒ってどういうものだかわからないから、酔っぱらうっていうこと自体が非常に不思議な感覚で、大人が酔っぱらうっていうのがちょっと理解できなかったんですね。祖父も酒造組合の会長をやっていたので、いろいろ付き合いでお酒飲んで帰ってきて、酔っぱらって大声出したりだとかして、子どもの頃はそれが怒鳴っているようにみえて、むしろお酒に対してマイナスのイメージが大きかったですよね。

——今の滝澤さんの真摯に酒造りに向き合う姿を知っている私たちとしては、蔵を継ぐ気がなかったというのは意外ですね。てっきり父の背中に憧れて、進んで酒造りを始めたものだと思ってました。

ただ、私は二人兄弟なんですが、酒蔵の長男として生まれたので、かなり小さい頃から、「(長男の)お前が跡を継ぐもんだ!」っていうのは両親とか祖父母からも言われていました。

気持ち的には後ろ向きだったんですけれども、でも将来自分が後を継がなきゃいけないんだなっていうふうには思ってましたね。最初から酒蔵の跡継ぎとして将来設計をしていれば、東京農大の醸造科なんかに行くのが普通なんですけど、私は高校へ進んだあと、大学は文系に進学しました。(笑)

大学3年の時、あるマンガとの出会いが酒造りに従事するきっかけになった。

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——KURANDとお付き合いのある蔵元さんの中でも、同じ埼玉県の寒梅酒造の鈴木杜氏や石井酒造の和久田杜氏も農大出身だとお聞きしたことがあるので、確かに農大生は多い印象です。

普通はそうなんですけどね。でも、私はまったく関係のない文系の大学に入って、で、なんとなく、その時に蔵元の後を継がなきゃいけないんだなとは思ってたんですけど、大学3年生の時に、私が酒造りに従事することを決めるきっかけとなった、あるマンガとの出会いがあったんです。

——それはどんなマンガですか?

「夏子の酒」っていうマンガなんですが、ご存じですか?

——タイトルだけ知ってるんですけど、実はまだ読んだことないんです…。

あのマンガ読んだ時に、酒造りって面白そうだなって思ったんですね。マンガに1コマ1コマ描かれている光景っていうのが、自分が子どもの時に見た光景だったので、これは面白そうだなって思って。実はあのマンガがものすごくいいきっかけにはなりましたね。

——なるほど。「夏子の酒」すごく読んでみたくなりました!

大学卒業後、人生で1番楽しかった4年間の武者修行

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——大学時代に「夏子の酒」を読んで蔵元の跡継ぎになることを決めた後は、どうやって酒造りを学んだんですか?酒造りはすごく難しいと聞きますが、どこかに修行などされたんでしょうか?

学校出てからは、東京のですね、福生市にある石川酒造というところで3年ちょっとお世話になったんですけど、実際にそこで酒造りもさせてもらいましたし、その時に「夏子の酒」に描かれていたことと結構ほぼ同じような仕事をしてたので、すごい酒造りって楽しいなって、面白い世界だなってその時に思いました。

幸運だったのは、石川酒造ってかなり当時はたくさん(お酒を)造っていたんですよね。それで年間130本ぐらいの仕込みがあったんですけれども、その仕込みに参加できたっていうことは今の自分にとって非常に大きな経験でしたね。そこの蔵人さんですとか、親方さんにはいろいろ酒造りについても教えてもらったので、今の私の酒造りの基礎になってますね。

——大学を卒業した後に3年間の武者修行をしたわけですね。

その後に広島の、当時は国税庁の「醸造研究所」(現「酒類総合研究所」)っていうところに行ったんです。そこは研修生みたいな形で、全国から結構酒蔵の後継者とか、あとは技術者の人が集まる場所なんです。当時40人ぐらい研修生が全国から集まってきたんですけれども、その時に同業の人といろんな話をして、酒造りに対する思いっていうのがまた一層熱くなりましたね。なので、石川酒造の3年間と、広島県の醸造研究所で過ごした1年の合計4年間っていうのは非常に今の自分にとって大きな月日でしたね。

——ちなみにその広島の醸造研究所では何をされたんですか?

石川酒造での修行期間は、現場仕事が中心で、体力勝負なところがあったんですが、広島の醸造研究所では、実施に少しお酒の仕込みもやりながら、科学的な酒造りのメカニズムの研究のようなことを教わりました。

うちの蔵で仕込むとね、1つのタンクを仕込むのに必要な総米が大きいものだと1.7トンぐらいなんですけど、醸造研究所では100キロぐらいの本当に小さな仕込みをしていて、中には総米1キロっていう本当に実験的な仕込みをしながら、担当の先生と一緒に香りの成分を研究したりしていましたね。

それまでは、現場の知識しかなかったので、そういった現場では得られない知識って言うんでしょうかね、そういった科学的なメカニズムとかを醸造研究所で教えてもらったことは、非常に役に立ちましたね。

——なるほど。酒造りは結構泥臭いイメージがあったんですが、意外と科学的な知識も必要なんですね。

そうですね。あと何より、さっきも言いましたけど、同業他社の人がたくさんいたっていうのが良かったです。そこでいろんな情報交換もできたし、飲み会みたいなものもね、毎日やっていたので、すごく楽しかったです。

——やっぱり飲み会なんかも結構頻繁にやるんですね。笑

そうですね。笑 本当に広島の1年間は楽しかったですね。今までの45年の中でも一番楽しいって言っていいぐらい楽しい1年間でした。

生活のリズムの変化、流派の違い、天国のような日々から一転。地獄のように厳しい日々。

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——4年間の修行を経て、滝澤酒造に戻って来たんですか?蔵に戻ってからの苦労などはあったんでしょうか。

そうですね。実はさっきの話の続きで、広島の1年間ってすごく楽しかったんですけど、ある意味、もちろん実験は実験でちゃんと真面目にやるんですけれども、毎日のように飲み会なので、ほんと天国みたいな環境なんですよ。で、その感覚のまま今の滝澤酒造に戻ってきて、すぐに酒造りを始めたんですよね。

当然、酒造りって朝早いですしね。石川酒造でももちろん酒造りはやってたので、なんとなく感覚的にはわかってたんですけれども、広島での日々があまりにも楽しかったので、その反動がね…。急に天国から地獄に来たような状況でしたね。最初はやっぱり社会復帰に時間がかかりましたね。笑

——広島で過ごした日々がどれほど幸せな日々だったかがよくわかりました。笑
他にもなにか苦労したことってあるんでしょうか?

もちろん、広島で酒造りも教わったんですけれども、石川酒造っていうのは新潟県から来る、いわゆる越後杜氏さんだったんですよね。石川酒造は8人蔵人さんが来てたんですかね。で、滝澤酒造は南部杜氏で岩手から来ていた親方なんで、ちょっと流派が違うんですよね。

——流派の違いってなんだか伝統を感じますね。

越後流と南部流って若干流派が違うので、最初はちょっと戸惑いましたね。自分が教わっていたのは越後流だったんで。もちろん、根本的な部分はまったく同じなんですけれども、やっぱり微妙に造り方っていうのは違うんですよね。考え方だとか、温度経過だとかね。あとは麹のつくり方もちょっと違いますしね。もちろん使っている米も当然違うわけで…。それがね、最初戸惑いもあったんですけれども、でもだんだん南部流っていうのもわかってきて。今の酒造りの基本っていうのは、基本的には南部流ですかね。もちろん越後流、越後杜氏さんにも教わったので、両方いい部分はとっているつもりなんですけどね。基礎となっているのは南部杜氏に教わった酒造りですかね。

——流派によっての特徴というか、造りによる味わいの違いってあるんですか?

そうですね。味わい的な部分は、例えば南部杜氏の中でもやっぱり造り方が微妙に違うので、南部杜氏が造ったからこういう酒になる、越後杜氏が造ったからこういう酒になるっていうことはないんですけどね。ただなんとなく、何て言うんでしょうかね、仕事に対する取り組み方っていうか、そのへんが違う気がします。

——具体的にはどういった違いですか?

結構酒造りの時期って長いんですけれども、越後杜氏さんっていうのは割と力をまんべんなく発揮できるタイプなのかなとは思うんですよね。仕事にムラがないっていうかね。

たまたまうちの親方だけかもしれないんですけれども、南部杜氏さんは、割と一点集中型っていうか、集中する時とそうでない時のメリハリがあるなって感じですかね。

大吟醸なんか造る時はすごいそこに集中するんですけど、それが終わるとちょっと気が抜けちゃったような感じ。もちろん私の主観でしかないんですけね。

それで味がどう変わるかっていうのは、よくはわかりませんけれども、そういった仕事の取り組み方っていうのはなんとなく違うなとは思いましたね。

つまり、これまで苦労した点で言うと、越後杜氏に教わった方法と、南部杜氏に教わった方法が違ったので、それぞれの方法に慣れるのには最初苦労しましたね。あとは生活のリズムの変化がやはりね…。笑

杜氏を引き継ぎ、苦悩の連続。「味が変わった」とまで言われた酒がIWCで2年連続金賞を受賞するまで。

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——最初は慣れなかった酒蔵での生活も、今では杜氏を務めるまでになったわけですが、杜氏になってから苦労されたことってないんでしょうか?

南部杜氏さんに9年間酒造りを教わっていたのですが、石川酒造でも3年間酒造りをやったので、約10年間の下積み時代があって、今から9年前の2007年から杜氏という役職を前の杜氏さんから引き継いだんです。割と下積み経験は長い方かなとは思うんですけれども、ただやっぱり杜氏になった1年目、2年目ぐらいまではすごく苦労しましたね。思った通りに酒ができなかったですし。

——やっぱり杜氏になってからも苦労はされていたんですね。

今の蔵人も当時は1年、2年目の若手でしたし、本当に素人の集団みたいな感じで、手探りで酒を造っていたんですよね。だから正直1年目、2年目はかなりひどい酒をつくっちゃったなっていうのは率直なとこでしたね。大失敗っていうか、失敗の連続ですね。今となってはね、それがいい経験にはなっているんですけれども。

——酒造りって、約10年の下積みがあってもなかなか上手くいかないものなんですね。

私が杜氏を引き継ぐ前までの南部杜氏さんっていうのは、鑑評会でいい成績とっていたんですよね。金賞も連続でずっととっていて。で、私が引き継いだ時も、その前の年に4年連続で金賞をとっていたんですよね。全国新酒鑑評会で、4年連続で金賞とっていて。

ですが、私が杜氏になって最初の3年間はずっと金賞とれなかったんですよね。杜氏が変わったから味が落ちたってことではないんでしょうけど、実際に「味が変わった」とか言われたりもして。でも、今までのように金賞をとれないってことは、客観的に見たら実際そういうことですからね。

——なかなか結果がでなかったわけですね。

そうですね。3年目からなんとなく味が安定してくるようにはなったんですけどね。でもまだ鑑評会に、金賞入るまではいかなかったんですけどね。3年目は入賞までいったのかな。でも…。

——納得はいかなかったと…。

そうですね。それで4年目からですね、結構安定した酒は造れるようになって。で、そこから4年連続で全国新酒鑑評会で金賞受賞できるようになったんですよね。あとはインターナショナルワインチャレンジというロンドンで行われる鑑評会でも、2年連続で金メダルをいただけるようになったんです。たまたまだとは思うんだけれども、でもね、最初の3年間よりはいい酒・安定した酒が造れるようになったってことだと思っています。

もちろんまだ、いまだに苦悩の連続ですが。でも、その中でも、他の蔵人も仕事に慣れてきたっていうこともあるので、今はね、本当に気を緩めないようにいい酒を造り続けていかなきゃいけないなとは思ってますね。

——素敵なお話、ありがとうございました!


今回のインタビューはここまで。滝澤英之さんが杜氏になるまでのお話でした。
 
次回のインタビューでは、杜氏になり酒造りに従事するようになってからの挫折や苦悩などについて、もう少し詳しくお話をうかがっていきたいと思います。お楽しみに。

滝澤酒造さんのインタビュー第二弾はこちら
滝澤酒造さんのインタビュー第三弾はこちら
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