日本酒の「冷や酒」=「常温」は今でも通じるのか? | KURAND(クランド)
鈴木 將央

日本酒の「冷や酒」=「常温」は今でも通じるのか?

2015/01/07

日本酒には冷や、常温、燗と幅広い飲み方がある。キリリとした「冷酒」も美味しいし、あっつい「熱燗」も最高だ。
 
ただ以前、ある居酒屋で「日本酒を冷や(ひや)でください」と注文したところ、冷たい冷酒が出された。ちょっと驚いてしまったのだが、他にもこんな経験をしたことある方はいるのではないだろうか。
 
 

「冷や酒(ひやざけ)」と「冷酒(れいしゅ)」の違いは?

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実は冷や酒(ひやざけ)とは常温の日本酒を指す。そして冷酒(れいしゅ)は、冷えた日本酒のことを指すのだ。表記ではどちらも冷たいお酒に感じるが、冷と酒の間に「や」が入るか入らないかで大きな差が生まれる。
 
冷たくないけど「冷や酒」というのだ。これは最近日本酒を飲み始めた人にとっては、不思議に感じるだろう。
 
 

日本酒を「冷やして飲む」のは歴史のなかでも最近

 
これには理由がある。冷蔵庫が普及していなかった昔は、日本酒の飲用温度は「冷や」と「燗」の区別しかなかった。簡単にお酒を冷やすことができなかったので、「冷や」というのは「燗を付けてない」酒となり、常温の日本酒を指していた。
 
つまり「冷酒(れいしゅ)」という日本酒を冷やした飲み方は、日本酒の歴史の中でも比較的最近の飲み方ということになる。
 
熱燗については「ぬる燗」「熱燗」など昔から細かく分類されていたらしいが、日本酒を冷やすという飲み方は一般的ではなかったのだ。1980年代に「吟醸酒」ブームが起こり、冷蔵庫の普及とともに、冷やす日本酒(冷酒)が広まった。
 
 

居酒屋の店主はどう対応するのか

 
ただこの「冷や酒」と「冷酒」の違い、日本酒好きには当たり前かもしれないが、最近日本酒を飲み始めた若い方々にとって、知らない方が多いはずだ。
 
ある東京都・文京区の日本酒にこだわる居酒屋の店主に聞いてみたところ、「最近は若いお客様も増えてきています。そのため『冷や』と注文されれば、常温のお酒か、冷えたお酒のどちらをご希望かを必ず聞くようにしています」という。日本酒を常温で飲みなれていない若い方も多いらしい。
 
個人的に常温は一番、日本酒本来の味がわかる温度だと思うが。
 
 

温度で風味や呼び方が変わるお酒は世界でも珍しい

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実は日本酒には、温度差による名称の違いが多くある。
 
それほど、温度で風味が変化する珍しい性質を持ったお酒なのだ。これは世界にまで視野を広げても稀有なお酒だ。日本の風土、気候、文化が育てた特性でもある。これぞまさに、日本が世界に誇れる文化だ。この魅力を知り、日本酒が好きになった方もいるはずだ。
 
 

温度でどんな変化が生まれるのか

 
一般的に「冷や」から「日向燗」程度までは、日本酒の甘味が増し、苦味が減る。つまり温めて燗にすることにより、酒により甘味が感じられるようになる。
 
そして「人肌燗」から「飛び切り燗」まで温度を上げていくと、切れ味が良い辛口が感じられるようになるのだ。(もちろん、酒質や人の味覚によって変わる。)
 
繰り返すが、日本酒は温度帯によって、風味も味わいも変わる。味わいも変化する。
 
そのため、酒好きにとっては「冷や酒(常温)」と「冷酒」の違いは死活問題なのだ。「冷や酒」は日本酒そのものの味を楽しみたいとき。「冷酒」は吟醸香の華やかな香り、すっきり爽快な舌触りを楽しみたいときと、楽しみ方が違う。
 
 

「冷や酒」=「常温」はもう必要ないのかもしれない

ただ最近の居酒屋では日本酒は大型冷蔵庫で冷やすのが一般的になってきているため、「冷や酒」と「冷酒」問題はある意味、解決されてきているのかもしれない。
 
時代の流れとともに冷やすのも一般的になっている昨今、若い人は「冷や酒」=「常温」と覚える必要はもう無いのだろう。少し寂しい気もするが、これこそ日本酒にとっての進化の賜物なのだろうと前向きに受け止めたい。
 
 
文・島 知呂子