鈴木 將央

日本酒は音楽のように人生を色付けるもの。農家さんとともに大きな夢や目標に向かって歩む|旭鶴 田中淳平さん

2017/02/17

まだ飲んだことのない日本酒を飲むとき、どんな人がどんな思いで醸した日本酒か知って飲むと、日本酒はもっと美味しくなると思いませんか?そんな思いで始まった蔵元さんインタビュー、旭鶴・田中淳平(たなか じゅんぺい)さんシリーズの第三弾、最終回です。

前回までのインタビューでは、田中さんの幼少期から修行時代、そして現在のお酒造りやKURANDに対する思いなどを伺いました。

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今回は前回までのエピソードを踏まえ、今どんな思いでお酒を造っているか、これからどんな挑戦をしていきたいか、KURANDと一緒にやっていきたいことなどをお聞きしました!

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農家さんは単なる契約相手ではなく同じ仲間。地域のつながりを大切に

——商品に対する思いはどんなものがありますか?

地元の農家さんから直接いただくお米で造ることですね。最近は「佐藤米」とか「鳥海米」っていう商品を出していまして、これは契約農家さんのお名前なんですよ。

——え、そうなんですか。お米の種類ではなく?

はい、どちらも千葉県の千葉市若葉区と匝瑳(そうさ)市っていうところの農家さんなのですが、仲介を入れず農家さんと直に話すので、どんな人が作っていて今年はどんな出来なのかとかもわかりますし、お米もかなりうまいんですよね。いい農家さんからいいお米を作ってもらっているっていうことで、そのまま商品名にしています。感謝の気持ちを込めて。

——素敵ですね!契約農家さんは地元の方が多いのですか?

はい。旭鶴は「山田錦」、「総(ふさ)の舞」、「日本晴(にほんばれ)」っていう3種類のお米を使っているのですが、前回もお話ししたように、総の舞が今千葉県でしか造られていなくて、これは地元の2ヶ所の契約農家さんから仕入れています。

——すごい、農家さんとの距離が近いですね。

はい。うちは小さい蔵なので夏に田んぼやって冬は酒造りっていうのがなかなか厳しくて、やっぱりどうしても契約農家さんになります。なのでなるべく親しい関係で、ある意味従業員というか同じ旭鶴のメンバーというかたちでやらせていただいていますね。

——いいですね。

この間酒造り体験ツアーで仕込み体験をしていただいたお酒が総の舞で、今年から蔵と同じ馬渡地区内の田んぼで作ることになりました。自分の兄貴分みたいな方にお願いして作ってもらっていて、今年初チャレンジで初めてお酒になるものを、KURANDさんでも飲んでいただこうと思っています。

——わあ、楽しみです!こだわりとか挑戦を、色んな面でされているのですね。

そうですね。小さい蔵なので、ある意味チャレンジしやすいのかなと思います。大きい蔵だと多分契約農家でいっぺんに作ってもらうっていうのは難しくて、どうしてもいろんなところの田んぼを使わないといけないと思います。でもうちは適量を一つのところで作ってもらっているため、それぞれで挑戦ができるんだと思います

——なるほど。いいですね!

前人未踏の「千葉県産山田錦」栽培。千葉県のキャラクターとして品種登録を目指す

——地元のお米を使ったお酒は地元出身の方はもちろん、他県の方にも知っていただきたいという思いもあるのでしょうか?

ありますね。山田錦も今までは兵庫県で作られていたのを使用していましたが、去年から千葉県でも作付にチャレンジしてみています。やっぱり大吟醸や吟醸系だと兵庫の山田錦が業界内では有名で、もちろん同じお米でも造りの部分を工夫して味を変えるのですが、地元のお米の方がキャラクターがより引き立つと思うんです。味が兵庫の山田錦にならなくても、千葉県の山田錦としてのキャラクターを出したいですね。それで山田錦の栽培を始めたところはあります。

——なるほど。山田錦の栽培は田中さんからご提案されたのですか?

最初農家さんから五百万石を作るから買ってくれませんかってオファーがあって、でも前回お話したように、旭鶴では五百万石を使っていないんですね。ただ、いい人そうだったのでそのままNOっていうのもなっていうことで「千葉県で山田錦」って面白そうだからもしよかったら一緒にやりませんか?とご提案したら「ぜひやってみたいです」ということで。こちらも一応探してたんです。そこでちょうど折り合いがついて。

——へえ、そんな経緯があったのですね。畑を見に行かれたりしますか?

はい、山田錦は千葉県での前例がなかったので、自分もなるべくお手伝いには行きます。匝瑳(そうさ)市まで片道1時間くらいかかって結構遠いんですけどね(笑)

——そんなにかかるんですね。

そうですね、同じ千葉県でも結構広くて。

——業界の中でもやっぱり千葉県で山田錦っていうのははじめてなのですか?

そうですね、関東でも栃木や茨城、神奈川では結構前から山田錦が品種登録されているんですよ。でもなんで千葉県ではまだ品種登録されていないんだろうって話が社内で出て、千葉で山田錦をつくってもいいんじゃないかって。千葉のほうが関東では南ですし環境は兵庫に近いと思いますしね。おかげさまで今年、2年目のお米がとれました

——順調ですね!品種登録はする予定ですか?

そうですね、旭鶴の方針としては品種登録をぜひしたいです。県で品種登録をされていないと、お米の検査が出来ないんですよ。

——え、そうなんですか?

もともと品種登録っていうのは、検査官が膨大な品種を全部覚えるのは大変なので、各県ごとにある程度品種の数を決めて検査しやすくする制度なんです。なのでもし増やす場合は何かを県の登録から外さなければならないことがあり、難しいです。

——なるほど。お米の検査をしてもらえないとどうなるのですか?

検査が出来ないと「千葉県産山田錦」っていう判子がもらえないんですよ。DNA検査で99.9%山田錦だっていう遺伝子検査はしたのですが、公的ではないのでラベルに「千葉県産山田錦」って書けないんです。間違いなく千葉県匝瑳市で育っていて、DNAでも山田錦なんですけどね。やっぱり千葉県の人にも地元産だと知って飲んで頂きたいので、ラベルにも書きたいです

——書きたいですよね…!

なので他の蔵にも一緒にやっていかないかって声をかけて、動き始めているところです。今年の目標の一つですね。

——応援しています!

日本酒は人生に色を付けるもの。音楽や絵画のように日々のささいな一部分を表現したい


——田中さんの造る日本酒を通して、今後みなさんのためにどんなことをしていきたいですか?

そうですね、個人的にはKURANDさんも若いお客さんが多いので、若い人向けの酒質があるといいのかなと思います。旭鶴のテーマはストロングドライ、濃醇辛口なのですが、これは初心者というよりは玄人向けなんですね。日本酒がもともと好きなら「あ、こういう濃醇辛口もあるんだな」とファンになってくれるお客さんもいると思うんですが、日本酒初心者の方も多くいらっしゃると思うので、もうちょっと甘いとか低アルコールとかのものを造りたいと思っています。僕もTe-hajime結構好きなんですよね。

——確かに、Te-hajimeは初心者にも人気ですね!

はい。Te-hajimeとはまた違った方向で、初心者向けというか、日本酒をあまり知らない人でもおいしく楽しく飲めるような商品が、旭鶴のなかでもあればいいなと思いますね。

——いいですね!旭鶴さんとしてはどうですか?

そうですね、旭鶴としては自分たちのスタイル、ストロングドライとか濃醇辛口を初心者向けにそのまま変化させるというか、ストロングドライのお酒で変化球なんかもありなんだよ、というのを他のお酒と差別化して個性を引き立たせることができたらと思っていますね。

——なるほど、面白そうですね!田中さんにとってお酒とは何でしょうか?

滝澤さんもおっしゃっていましたが、日本酒ってただ生きるのには不必要なものだと思っています。正直食べて運動して仕事していれば人間生きていけるので。その中で日本酒は文化といいますか、人生に色を付けるようなものだと思っているんです。ある意味お笑い芸人とかみたいな、人生を楽しくするような立場ですね。自分の中では音楽や芸能に近いのかなと思っています。なので今KURANDさんでも取引させていただきはじめた「新世界」というのも、クラシック音楽の「新世界より」から引用させていただいた名前なんです。

——あ、そうだったのですね!

旭鶴は蔵開きってしていないんですが、ここ3年くらい夏に音楽コンサートみたいなのを蔵開き的な感じでやっているんです

——蔵の中で!響きそうですもんね。

響きますね、タンクとか冬場は造っていますけど、夏場は空のタンクばかりなので結構反響があります。今プロのギタリストやジャズバンドとかも来て多ジャンルでやっているんですけど、みんなタンクの反響がいいって言いますね。壁が音を吸収しちゃう公民館とかと比べて、音楽ホールとまではいきませんが、音の環境だけでいうと蔵は結構いいと思います

——へえ、すごい!音楽とのコラボも似たような立場ということでされているのですね。

そうですね、お酒とはと聞かれたら芸能のような。もうちょっと広げた話でいうと、お酒って一つの会社が銘柄を色んなスペック(純米酒や本醸造、大吟醸)で出したりと、全部同じ肩書でやっているじゃないですか。

——そうですね。

タンクひとつ分造ると結構いっぱい出来て、いっぱい売るんですよね。でも音楽とか絵画とかって、ささいなことを描いたり歌ったりするじゃないですか。

——はい。

日本酒もそういう生きていく日々の一部分をささいに表現できれば面白いんじゃないかなと自分は思っていますね。どうしても造りが大きくなっちゃうので、なかなかそういう蔵はないと思うんですけど。旭鶴はわりと小さいのでそういうことが今後できるんじゃないかなとは思っていますね。

——すてきなコンセプトですね!

何でもありなこの時代。今はまだない新境地を開拓していく

——KURANDと一緒に挑戦したいことはありますか?

一緒にだったらやっぱり生樽サーバーですね。KURANDさんに行く前は他の飲食店さんに生樽を入れていましたが、何種類もある中から1杯ずつ注文するので、なかなかサーバーの回転率が悪かったんです。そうするとやっぱりサーバーのメンテナンスの部分で損失分も出てしまうので、その飲食店が閉まったというタイミングで、KURAND SAKE MARKET池袋店オープンのときに生樽サーバーを提案してみたんです。ちょうど1年後くらいの新宿店オープンのときにじゃあ一緒にやろうっていうことで生樽サーバーをすることになりました。

——そんな経緯があったのですね。ありがとうございました!

その生樽サーバーの質を今後も上げていきたいですね。やっぱり生樽にしかできない酒質っていうのがあると思うので。

——なるほど。専門学校で学ばれたビール造りなども活かしながらでしょうか。

そうですね。生樽の酒質を考えるとやっぱりビールに学ぶことはあるのかなって思います。ビールはホップを入れるように、発泡酒の扱いでホップの量を減らしてコリアンダーなどの香料を入れるものもあります。ただ日本酒ってそういうのにあまり馴染みがないので、日本酒の定義から外れてもそういうのにも興味はありますね。地ビール蔵に勤めている同級生にも聞いてみようかなと思っています。

——いいですね!コラボとかできたら面白そうですね。

そうですね。以前地元の地ビール屋さんがうちの麹を買って、麦芽と日本酒の麹を混ぜたハイブリッドの「チャン」っていうものを、地ビール屋さんとコラボして試験的にやったことがありますよ。

——へえ、面白い。可能性が広がりますね!
そうですね、今の時代何でもありですからね。ビールとか日本酒とかの殻にとらわれずやっていきたいです

——わくわくしますね!最後に読者のみなさんに向けて一言お願いします。

旭鶴の造るスパークリング、開発コード「ジュン・ペリニヨン」をお楽しみに!

——「ジュン・ペリニヨン」?!ドン・ペリニヨンと淳平さんを混ぜたのですか?!

そうです(笑)泡の研究はここ2、3年やっているので、また夏場研究して、社内で完成度の高いものになったらお客様に提供したいと考えています。

——おお、いいですね。「ジュン・ペリニヨン」、楽しみにお待ちしています!全3回にわたってありがとうございました!

編集後記

色んな視野を持ち、いつも柔軟に考える田中さん。常に先へと挑戦していく姿勢に心を動かされました。日本酒に対しても業界に対しても保守的ではなく、変わっていくこと、そして新しく生み出すことへの希望と活力に満ちています。

嗜好品、アルコール飲料としてだけでなく、音楽や芸術などの文化的な役割も日本酒にはあると考える田中さん。そのように考えると、日本酒のあらゆる可能性が広がりますね。
 
ご自身の料理でマリアージュをしたり、研究中の日本酒に開発コードを付けるなど、楽しく深掘りしたくなる話題をたくさん持つ田中さん、みなさんもイベントでお会いしたときは色んなお話を聞いてみてくださいね♪

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