鈴木 將央

プロの腕の見せ所。寝る間を惜しまず麹を見守る「盛り」

2018/07/04

皆さんは、日本酒造りにおける「製麹(せいきく)」という工程を知っていますか?「一麹、二酛、三造り」という日本酒造りの格言があるように、製麹は酒造りの最も重要な工程の一つとされています。
 
前回ご紹介した「床もみ」に引き続き、製麹の第三段階である「盛り」について解説します!

製麹とは?

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精米したお米の一部は、洗って蒸した後、「麹」を作るために「製麹」の作業に入ります。「製麹」の過程では、床もみ、切り返し、盛り、仲仕事、仕舞仕事、出麹という作業が行われ、お米が麹へと変わっていきます。
 
麹は、「種こうじ」と呼ばれる菌を米に付着させ、米の中で繁殖することによってできます。そうして出来上がった麹は、日本酒造りで欠かせない「糖化」を手助けする働きをします。また、麹は日本酒の深いコクを引き出す働きも持つため、質の良い麹を造ることが、酒質を左右する決定的なポイントとなります。

麹室というところ

良質な麹を造るためには、〈適切な温度〉を保つことが必要です。そのために、製麹は徹底的に温度管理されている「麹室(こうじむろ)」という部分で作業されます。30度前後に設定された麹室での作業は、想像以上にハードなものです。

製麹で必ず行うこと

麹菌以外の菌や汚れが米に付着しないように、麹室を清潔に保つ努力がなされています。麹室に入る前は、必ず手を消毒します。また、白衣などに着替え、帽子をかぶります。
 
麹室の扉は風が通らないように密閉できる構造になっていることが多く、出入りの時もできるだけ開けっ放しにしないと決められています。このように、細心の注意を払うことによって、良質な麹が作られています。

「盛り」とは?

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「盛り」とは、温度管理をするために麹米を一定量ずつ箱に入れる作業です。
 
前回の「切り返し」が終わると、麹菌の繁殖が進み米の表面に白い点々の模様が出てきます。これを破精(はぜ)といい、麹菌がしっかりと繁殖していることを示します。
 
麹菌は繁殖時に熱を放出します。繁殖が進んで米の温度が上がりすぎてしまうと、こんどは繁殖が止まっていしまいます。そのため、積まれている麹米を手でもみほぐし、一定量ずつ箱に入れて重ねて保管し、温度管理をします。

盛りの3つの方法

盛りをする際は、蓋麹法、箱麹法、機械製麴法の3つの方法があります。
 
■蓋麹法
蓋麹法は伝統的な方法で、「麹蓋」という木製のお盆に麹米を入れます。
 
■箱麹法
箱麹法は、麹箱という木製の箱を用いて麹を作ります。麹蓋法より能率的で、経過は麹蓋法より進みやすいので、現在では多くのお酒の作りで箱麹法が採用されています。
 
■機械製麴法
機械製麴法は、機械によって全自動で麹を作る方法です。機械が温度と湿度を適度に調節するので、麹菌の繁殖を自動的に制御できます。

麹蓋に隠された秘密とは?

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麹蓋を使用して麹を作る蓋麹法は、米質・蒸米の硬軟に応じて作業毎に経過を調節できるため、目標とする麹の品質に導きやすいと言われています。そのため、大吟醸や出品酒などはこの麹蓋法でやる蔵がほとんどです。
 
しかし、管理する麹蓋の数が多く、また麹蓋の位置によっても温度や乾燥具合が変わるため、管理に神経を使う製法なのです。
 
全ての麹米を適切に管理するためには、麹室の棚に積み上げられた麹蓋をすべてローテーションさせていく必要があります。2~3時間おきに移動や積み替えを繰り返すことで、すべての米粒のなかに均一に麹菌を繁殖させていくができます。
 
「麹番になったら寝る暇がなくなる」という製麹の大変さを表す言葉は、微細な温度変化を逃さずチェックする苦労に由来するんですね。

麹蓋の材質の話

多くの麹蓋は杉でできています。古来、住宅の材木として使用されてきた杉は、高い調湿性を持ちます。10cm角の杉材で一升瓶1本分の水分を含むことができるほどの調湿力を持つ杉を麹蓋に使用することによって、麹米の水分を適切に吸収してくれます。
 
どんな酒蔵でも麹室だけは杉で作られていることが多いのも、この理由が関係しています。真冬の高温の室内に過乾燥な環境を作り出すことが出来るため、麹室には杉材が採用されています。
 

なぜ蓋麹法で作るのか、蔵元に聞いてみた。


日本酒造りも機械化が進んでいる中、寝る間を惜しんででも蓋麹法で日本酒を作るのはなぜでしょうか。実際に蓋麹法で日本酒を作っている、埼玉県・寒梅酒造の鈴木隆広杜氏に聞いてみました。
 
ーー蓋麹法の難しさは何ですか?
 
「一番は、すべての麹の温度や破精込み具合を均一にするのが難しいことです。麹米を小さな蓋を分けて管理しているので、すべての蓋の温度を均一に保ことに一番気をつけています。
 
あとは、温度管理などを人が行うので、単純に造りに携わる時間が長く体力的に大変です。とりわけ蓋麹法で作る場合、夜間のチェックのために夜眠れないこともあります。
 
蓋麹法でうまく造れるかどうかは経験がモノを言うところもあり、蓋麹法で大吟醸酒を造る時期はプレッシャーで精神的にも緊張しています。
 
ーー蓋麹法での酒造りは、肉体的にも精神的にも大変な作業なんですね。それではなぜ、蓋麹法で酒造りをするのですか?
 
「小分けにして管理する分、温度管理や乾燥の具合の調整がしやすく、思い通りのものがつくりやすいという利点はあります。細かいところまで気を配ることができますし、1つのロットの中でもいくつかに造り分けることも可能です。
 
あとは、「想いを込めやすい」のではないかと自分では思っています。手間や時間をかけてお酒を作ることで、「美味しいお酒を造りたい!」、「難しいことに挑戦してやる!」、はたまた「自分が納得いくようやりきる」など、お酒に対する思いは強くなります。こういった酒造りへの思いは、お酒の個性にもつながりますし、良いものを造るという上で非常に重要なことなんじゃないかなと思っています。
 
蓋麹法には利点と難点があって、しかもそれがなんとなく表裏一体になっています。夜寝れないけどこだわって造れたり、こだわって造れるけど技術・経験がないと逆にダメなものができてしまったり…。ですが、小蓋を使って造るようになってから間違いなく酒質は上がりましたし、なんとか利点の方を引出せているのかなと思います。」


いかがでしたか?蓋麹法は麹米の管理に労力を費やす分、お酒に対する思いは強くなるという言葉が印象的でした。日本酒の個性として味わいに現れる蔵元の思いを感じながら、日本酒を飲んでみたいですね!
 
蓋麹法で麹を作るときは、杜氏は目の色を変えて取り組むそうです。それほどに神経を使って麹米の様子をチェックし、苦労して管理するんですね。そのひたむきな姿勢は、まるで我が子に向けるようです。
 
次回は、仕上げの作業「仲仕事・仕舞い仕事」について紹介します。

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