
日本酒の「冷や酒」=「常温」は今でも通じるのか?
2022/06/13
日本酒には冷や、常温、燗と幅広い飲み方がある。キリリとした「冷酒」も美味しいし、あっつい「熱燗」も最高ですよね。
以前、とある居酒屋で「日本酒を冷や(ひや)でください」と注文したところ、冷たい冷酒が出されたことがあります。ちょっと驚いてしまったのですが、他にもこんな経験をしたことある方はいるのではないでしょうか。
「冷や酒(ひやざけ)」と「冷酒(れいしゅ)」の違いは?
実は「冷や酒(ひやざけ)」とは、常温の日本酒を指します。
一方、「冷酒(れいしゅ)は、冷えた日本酒のことを指します。
表記ではどちらも冷たいお酒に感じますが、冷と酒の間に「や」が入るか入らないかで大きな差が生まれるようのです。
冷たくないけど「冷や酒」というのです。これは最近日本酒を飲み始めた人にとっては、不思議に感じるだかもしれませんね。
日本酒を「冷やして飲む」のは歴史のなかでも最近
これには理由があります。
冷蔵庫が普及していなかった昔は、日本酒の飲用温度は「冷や」と「燗」の区別しかありませんでした。
簡単にお酒を冷やすことができなかったので、「冷や」というのは「燗を付けてない」酒となり、常温の日本酒を指していました。
つまり、「冷酒(れいしゅ)」という日本酒を冷やした飲み方は、日本酒の歴史の中でも比較的最近の飲み方ということになるのです。
熱燗については「ぬる燗」「熱燗」など昔から細かく分類されていたそうですが、日本酒を冷やすという飲み方は一般的ではなかったのです。
1980年代に「吟醸酒」ブームが起こり、冷蔵庫の普及とともに、冷やす日本酒(冷酒)が広まったと言われています。
居酒屋の店主はどう対応するのか
ただこの「冷や酒」と「冷酒」の違い、日本酒好きには当たり前かもしれないですが、最近日本酒を飲み始めた若い人にとって、知らない方が多いはず。
とある東京都・文京区の日本酒にこだわる居酒屋の店主に聞いてみたところ、「最近は若いお客さまも増えてきています。そのため『冷や』と注文されれば、常温のお酒か、冷えたお酒のどちらをご希望かを必ず聞くようにしています」とのことです。
常温は一番、日本酒本来の味がわかる温度だ、と思われる方もいると思いますが、どうやら日本酒を常温で飲みなれていない若い人も多いようです。
温度で風味や呼び方が変わるお酒は世界でも珍しい
実は日本酒には、温度差による名称の違いが多くあるのです。
それほど、温度で風味が変化する珍しい性質を持ったお酒です。これは世界にまで視野を広げても稀有なお酒とも言えます。
日本の風土、気候、文化が育てた特性でもあり、これぞまさに、日本が世界に誇れる文化とも言えるでしょう。
この魅力を知り、日本酒が好きになった方もいるはずです。
温度でどんな変化が生まれるのか
一般的に「冷や」から「日向燗」程度までは、日本酒の甘味が増し、苦味が減る。つまり、温めて燗にすることにより、酒により甘味が感じられるようになると言われています。
そして「人肌燗」から「飛び切り燗」まで温度を上げていくと、切れ味が良い辛口が感じられるようになります。(もちろん、酒質や人の味覚によって変わりますが。)
繰り返しますが、日本酒は温度帯によって、風味も味わいも変わり、味わいも変化します。
そのため、日本酒好きにとっては「冷や酒(常温)」と「冷酒」の違いは死活問題。
「冷や酒」は日本酒そのものの味を楽しみたいとき。「冷酒」は吟醸香の華やかな香り、すっきり爽快な舌触りを楽しみたいときと、楽しみ方が違うからです。
「冷や酒」=「常温」はもう必要ないのかもしれない
ただ、最近の居酒屋では日本酒は大型冷蔵庫で冷やすのが一般的になってきているため、「冷や酒」と「冷酒」問題はある意味、解決されてきているのかもしれません。
時代の流れとともに冷やすのも一般的になっている昨今、若い人は「冷や酒」=「常温」と覚える必要はもう無いのでしょう。
少し寂しい気もしますが、これこそ日本酒にとっての進化の賜物なのだろうと前向きに受け止めたいと思います。