今回は、実家の酒蔵を継ぐと決意した女性杜氏が、人生で初めて醸した日本酒「門出」について、その誕生の舞台裏をお話いたします。
120年以上続く、一宮酒造の想いを次代に繋いでいくために
島根県大田市で120年以上続く老舗酒蔵「一宮酒造」。その三姉妹の次女として生まれた浅野理可さんは、幼い頃から酒造りに触れて育ってきました。
両親から「跡を継いでほしい」と言われたこともなく、特にやりたいこともなかった浅野さん。高校生の時に「このまま誰も跡を継がなかったら、蔵はどうなってしまうのだろう?」と不安を覚えたことから、跡を継ぐ決心をします。
高校卒業後は大好きな地元を離れ、東京農業大学へ進学。酒造りについて勉強をしながら、酒屋でのアルバイトも始めました。
実際にお客さまと触れ合う中で、膨れ上がってきたのは「もっと造り手の想いを自分の言葉で伝えたい」という思い。自身が酒造りの第一線に入ることで「造り手の想いを伝える」ことを実現できると考え、杜氏になる決心をします。
様々な人生の門出を迎え、初めて醸した日本酒
卒業後は実家へ戻り、当時酒造りの時期だけ兵庫県から来てもらっていた但馬(たじま)杜氏の元で3年修行。そこから浅野さんの酒造りへの挑戦が始まりました。
その後、同じく大田市出身で日本酒好きである怜稀(さとき)さんと結婚。現在は二人三脚で酒造りをしています。
結婚を経て、出産を控え、実家の酒蔵の跡を継ぐ。様々な人生の門出が続いていた浅野さんが、初めて自身の手で醸した日本酒。それが「門出」でした。
「門出」というテーマに合うデザインを求めて
門出の発売は2017年。贈答品の装飾に使われる「熨斗」をイメージしたデザインを採用し、最初の1年はこのラベルデザインで販売をしていました。2018年からは赤い花をデザインしたラベルに変更。”お祝いに花を贈るように、「門出」を祝うお酒を贈る”。そんなメッセージや想いが、現在の「門出」のラベルデザインに込められています。
門出にふさわしく、愛され続ける銘柄になるために
「初めての酒造りだからこそ、ちゃんとお客さまに満足してもらえる味わいのお酒が造れるか、不安な気持ちでいっぱいでした。女性の幸せ、跡継ぎとしての責任。私自身の門出とともに歩んできたこのお酒は、まさに私にとっての『門出』の1本です」と浅野さん。2019年には味わいを変更。辛口だった味わいは、すっきりとした香りとお米の優しい甘みを感じる甘口へと変わりました。たくさんの思いが詰まった1本。「大切な場面にふさわしいお酒」を貪欲に考え続けることで、長く愛される商品となっています。