いつの間にか、3月も終わろうとしていますね。商品開発担当のMです。
窓を細く開けると、少し生温かさを帯びた春の夜風が、ふわりと頬を撫でていきます。
お気に入りのグラスを出し、お酒を注ぐ。
そんな静かな夜の傍らに、甘すぎない、けれど心がほどけるような「お供」があれば。
そこで思い立ったのが、宇治抹茶を使ったチーズケーキでした。
甘さを控えて出会った、繊細な香り
市販の抹茶スイーツを口にするたび、どこか物足りなさを感じていました。
万人受けする優しい甘さも素敵なのですが、お酒好きとしては、抹茶特有の深く突き抜けるような苦味を、もっとダイレクトに味わいたいという想いがありました。
「それなら、グラスの隣にふさわしい『大人のためのデザート』を、自分たちの手で形にしてみよう。」
そんな想いから、私たちの手探りの開発がスタートしたのです。
最初は流行りのバスクチーズケーキにナッツを合わせてみたり、焼かずに冷やし固める生レアチーズにドライベリーの赤色を添えてみたり。
スイーツとしての完成度を求めて、何度も試作を重ねました。
けれど、ナッツの香ばしさは宇治抹茶の繊細な香りをかき消してしまい、ベリーの酸味は主役の良さを打ち消してしまう。
試作品を口にするたび、「美味しいけれど、お酒の隣に置くには何かが違う」という違和感が拭えませんでした。
ある日、メンバーのひとりと試作品を前にして、ふと気がついたのです。
「私たちは、甘いケーキを作りたいわけじゃないんだ」と。
三層のグラデーションと、お酒を呼ぶ「塩気」
「スイーツではなく、お酒の隣で輝く『おつまみ』を作ろう。」
その決意から、余計なものを削ぎ落とす引き算の作業が始まりました。
向き合ったのは、抹茶の心地よい苦味、チーズの酸味、そしてお酒を呼ぶための「塩気」。
4回目の試作でようやく辿り着いたのは、異なる製法を重ねた三層のグラデーションでした。
一番上は、なめらかな口どけとともに香ばしい宇治抹茶が広がる生レアチーズ。
真ん中には、粉を極限まで減らし、密度を高めた重厚なベイクドチーズ。咀嚼するたびに、深い緑色からコクと苦味が滲み出します。
そして一番下には、サクッとした軽やかな音で、「もうひと口」を誘うクッキー生地。
さらに、生地に混ぜ込むのではなく、あえて層と層の「境界線」に、フランス・ブルターニュ半島で千年守られてきた「ゲランドの塩」を薄く振ったのです。
舌に触れた瞬間に走る、まろやかで輪郭のある塩気。
それがほんのりとした甘みを引き立て、ついグラスへ手を伸ばしたくなります。
グラスの向こうに広がる、新しい抹茶の景色
パティシエではなく、「お酒のプロ」である私たちがどうしても譲れなかったこと。
それは、ケーキ単体での完成ではなく、お酒と合わさった時に初めて完成する「ペアリング」としての在り方でした。
たとえば、お米の甘みを活かした日本酒と合わせれば、まるで上質な和菓子を嗜んでいるかのような多幸感に包まれます。
濃厚な甘みを持つミードと合わせれば、抹茶のキレのある苦味と相反する要素が絡み合う、禁断の味わいに。
そんな中で私が一番好きなのは、フルボディの赤ワインと合わせる楽しみ方です。
深いルビー色と、凛とした濃緑色。
グラスを傾け、ケーキをひと口。
宇治抹茶特有の深い香りと、焼き上げたチーズの芳醇な香りが鼻を抜け、心地よい苦味が長く、長く舌の上に留まります。
次はどんなお酒と合わせてみようか。
試作のたびに違う顔を見せてくれた宇治抹茶は、まだまだ知られざるポテンシャルを秘めているようです。
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