今回ご紹介するのは、シェリー樽で仕上げたウイスキー「智 -chi-」です。
ミズナラ樽、ラムやテキーラの樽まで、さまざまな樽熟成のウイスキーを手がけてきたクランドが、あらためて向き合ったのが「樽熟成ウイスキーの原点」でした。
この1本にどんな想いが込められているのか。
企画から開発までを手がけた担当者に話を聞きました。
プロフィール
はじめ
酒蔵と相談しながら素材の選定からブレンドなど、どんな設計にするかを決める商品開発を担当。
主な担当商品は「Black Opal」や、「奏来 -sora-」、「楢ノ香 -naranoka-」など。
ウイスキー史上、最初の樽熟成はシェリー樽だった?
──まず、この「智 -chi-」を開発しようと思ったきっかけを教えてください。
これまで、本当に色々な樽熟成のウイスキーを販売してきました。
ミズナラ樽の「楢ノ香 -naranoka-」や桜樽の「万櫻 -banou-」、ラム樽の「郁 -iku-」やテキーラ樽の「燦景 -sankei-」など、ウイスキー開発をひと通りやってきたな、と思ったある日、ふと気づいたんです。
「樽熟成ウイスキーの始まりとも言われるシェリーカスクを、まだやっていないじゃないか」と。
あまりにも王道すぎて、かえって後回しになっていたのかもしれません。
でも、原点に立ち返るという意味では、これ以上ないテーマだと思いました。
──樽熟成ウイスキーの原点、気になりますね。そこから、この商品のコンセプトが決まったのでしょうか。
最初の樽熟成ウイスキーはシェリー樽だったという話を知ったとき、これはお客さまにもお伝えしたい、と思ったんです。
シェリー樽で熟成したウイスキーの魅力を、味わいだけでなく、その奥にある歴史まで一緒に楽しめる、そんなコンセプトの商品に仕上がりました。

──歴史、ですか。シェリー樽ウイスキーについて、具体的にはどんな物語があるんですか?
今では当たり前に楽しまれている樽熟成ウイスキーですが、その原点は、まったくの偶然の産物だったという説があります。
18世紀のスコットランドでは、酒税に苦しんだ人々は、密造したウイスキーを、当時スペインから大量に輸入されていたシェリーの空き樽に隠していました。
しばらくして樽を開けたとき、ウイスキーから甘く優雅な香りが立ちのぼっていたんです。
樽の風味が溶け込んで、ウイスキーに思いがけない深みが生まれていたわけですね。
極甘口の「ペドロヒメネス」樽から生まれる味わい
──開発の面では、 その風味をもたらす樽選びが大きなポイントになったのでしょうか。
そうですね。
ひとくちにシェリー樽といっても、何のシェリーが入っていた樽なのかで、ウイスキーの表情がまるで変わります。
ペドロヒメネス、オロロソ※1、モスカテル※2など……。
今回はそのなかから、ペドロヒメネスのシェリーが入っていた樽を選びました。
──シェリーといっても色々あるんですね……ペドロヒメネスというのは、どんなシェリーなのでしょう。
シェリーのなかでも最高峰の甘さを誇る、極甘口のシェリーです。
ペドロヒメネスというぶどうを天日干しにして、限界まで糖度を高めてから仕込むもので、レーズンや黒糖を思わせる濃密な香りと、なめらかな口当たりを持っています。
そういうニュアンスが、樽を通してウイスキーに移っていくんですね。
──なるほど、先ほど話していただいた逸話のように、今回の「智 -chi-」も、ずっと「ペドロヒメネス」のシェリー樽で寝かせていたのでしょうか。
今回はシェリー樽で「仕上げる」カスクフィニッシュという手法をとっています。
ノンピーテッドの原酒※3を、最後にペドロヒメネスのシェリー樽で数か月ほど休ませることで、あの甘く重厚な香りをまとわせているんです。
──シェリーの甘い香りをまとった熟成ウイスキー、どんな特徴に注目して飲んでほしいですか。
やはり、シェリーそのものの味わいを思い浮かべながら飲んでいただきたいですね。
干し葡萄のような甘やかさ、なめらかさの中に、樽が語りかけてくる歴史を感じてもらえたらと思います。
※1. ドライで骨太な味わいが特徴のシェリー。この樽で熟成すると深いコクと熟成感が出る。
※2. 華やかなアロマと、爽やかさが調和した複雑な味わいが特徴の甘口シェリー。この樽で熟成すると、甘い香りとスパイシーさが引き立つ味わいとなる。
※3. ピートを使用せずに作られたウイスキーのこと。ピートはスコットランドの一部のウイスキーでは、スモーキーな風味を加えるためによく使われる原料。ノンピーテッドウイスキーはその影響を受けず、よりクリーンでフルーティーな味わいが特徴となる。
名前に込めた、歴史の叡智に触れてほしいという願い
──この「智 -chi-」というネーミングは、そんなシェリー樽熟成ウイスキーから、歴史を知るという意味なんですね。
はい、この1本が、お客さまにとってウイスキーの樽熟成の始まりに想いを馳せるきっかけになってほしい。
そんな願いを込めて名づけました。
ただ美味しい、というだけでなく、その背景にある歴史やロマンまで含めて味わっていただけたら嬉しいです。

──ラベルデザインにも、その世界観が表れているのでしょうか。
テーマのひとつが「歴史」でしたので、歴史の「重なり」と、樽熟成によって紡がれた「多層的」な香り、この2つをデザインで表現したいと考えました。
「重なり」のイメージから、マーブリングのような模様になりました。
インパクトがありながら、見飽きない、むしろ見るほどに惹き込まれる奥深さがあって、そこが個人的にもとても気に入っています。
このウイスキーから原点を感じて
──では、歴史のロマン溢れる「智 -chi-」のおすすめの飲み方を教えてください。
まずはストレートで、静かに口に含んでみてください。
滑らかな甘みと、モルトの香ばしさが、舌の上でじわりと溶け出していきます。
ロックにすると、氷が解けるにつれて華やかな果実味がひらいていく。
ソーダで割れば、爽快感のなかに上品な余韻が長く伸びていきます。
味わいの表情が変わるのも魅力です。
──どんな特徴に注目して飲んでほしいですか。
やはり、シェリーそのものの味わいを思い浮かべながら飲んでいただきたいですね。
干し葡萄のような甘やかさ、なめらかさの中に、樽が語りかけてくる歴史を感じてもらえたらと思います。
──このお酒に合う理想のシーンやおつまみはありますか?
私は、じっくりと晩酌で味わいたいですね。
ダークなチョコレートやチーズ、ナッツといった定番のおつまみと合わせて。
1日の終わりに、静かにグラスを傾ける時間にぴったりだと思います。
──このウイスキーが気になっている方に一言いただけますか?
シェリー樽ウイスキーは、ある意味定番と言えます。
だからこそ、ウイスキーが好きな人だけでなく、これからウイスキーの世界に踏み込んでみたいという方にも、ぜひ試していただきたいです。
原点を知るための1本として、きっと入り口になってくれるはずです。
重なりゆく香りで、歴史を感じる1本
偶然、シェリーの空き樽に隠されたウイスキー。
そこから始まった樽熟成の物語が、時を超えて、神戸の蒸溜所で「智 -chi-」という1本に結ばれました。
極甘口ペドロ・ヒメネスの樽からもたらされた甘く重厚な香りは、ウイスキーの原点を静かに語りかけてきます。この「智 -chi-」は、抽選販売の限定酒。
悠久のウイスキー史に思いを馳せながら、1日の終わりにそっとグラスを傾けてみてください。